今回は、薬の副作用についてお話しさせていただきたいと思います。
多くの高齢者が、毎日、たくさんの薬を飲んでいます。
普通は高齢になるとあらゆる意味で感受性が鈍くなって、
「薬を飲んでも効きが悪く、従って副作用も少ない」と誤解されがちです。
しかし、実は"高齢者ほど薬の副作用が出やすい"ということが、
最近の研究で分かってきました。
その主な理由は、以下の4点です。
飲んだ薬は、胃または小腸で吸収され、血液によって全身に運ばれます。
このときに薬は、その目的とする臓器・器官で作用を発揮し、
そこで役割を終えると、肝臓で分解されて、腎臓に運ばれ尿として排出されます。
この薬の効果は、全身に運ばれるときの血液中の薬の濃度によって決まります。
これを“血中濃度”といいます。
濃度が低いと作用が不十分で、逆に濃度が高すぎると、
作用が強すぎて“副作用”といわれる状態を生むのです。
また、肝臓での分解が円滑でなかったり、
腎臓からの排泄が円滑でない場合も、
薬は血液中に留まり、血中濃度を押し上げます。
2つめの理由として、
「成人への薬剤量が、そのまま高齢者に用いられている」という問題があります。
老年病の専門医や専門書では、
「高齢者には成人に対する薬の量の2分の1~3分の1で開始し、
経過をみながら増量する」ように言われているのですが、
一般医療機関の大半がそうなっているわけではありません。
薬物に対して、高齢者は成人と同じ反応性を示すわけではなく、
鈍くなったり、逆に反応が強すぎることがあります。
ですので、なおのこと、少量から開始する慎重さが求められるのです。
何種類もの薬が処方され、
服用することを“多剤併用(ポリファーマシー)”といいます。
高齢者はいくつもの病気を持つことが多いため、
その一つひとつに処方すると、
結果的に同時に飲む薬の種類が増えます。
また複数の医療機関にかかることで、
それぞれの医師が各々の考えで処方する結果、
薬の種類が増えてしまうのです。
中には「治りが悪いから」と、
同じ病気で複数の医療機関を受診した結果、
“同じ薬効だが、名前だけ違う薬がいくつか出される”
ということもあります。
薬はそれぞれに作用を持っていますが、
他の薬剤が体内に入ると、
相互に作用して新たな別の作用を生むことがあります。
この仕組みはまだよく分かっていないものの、
併用する薬剤が多いほど副作用も出やすいのです。
また、『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015』(日本老年医学会)によれば、
“薬剤数5種類以上になると、著しく転倒が増加する”
ことが報告されています。
つまり、私たちは、
「高齢者の転倒を老化のせいにするのではなく、薬の副作用かもしれない」
という考え方も持つようにすることが大切です。
これまでの介護職の役割といえば、
高齢者の“薬の飲み忘れ”がないように、
“医師の指示通り”に服薬を促すことでした。
しかし、ご利用者さまの生活に直結している私たち介護職は、
ご家族と同様にご利用者さまの様子を最もよく把握できる立場にあります。
今後とも、ご利用者さまの様子がおかしいと感じたら、
上記4点に留意して、薬剤のチェックも忘れないようにしたいと考えています。