パワーリハビリテーション(以下、パワーリハビリ)は、
脳卒中(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞)を原因とする身体マヒに対しても、
機能改善の効果があります。
当社顧問の竹内孝仁先生(国際医療福祉大学大学院教授、
日本自立支援介護・パワーリハ学会理事長)が、
もともとパワーリハビリを開発しようとした動機は、
このような方々の"歩く"能力を改善することにありました。
しかし、実際にパワーリハビリを行ってみると、歩く能力が向上しただけでなく、
「全身の動きも、諦めていた手の動きも、以前より良くなった!」
という声が続出したのです。
その後、このような効果をもたらす原因が“筋肉の緊張”を弱めることにある、
ということが分かってきました。
脳卒中で半身マヒになると、マヒ側の手足は筋肉の緊張が高まって、
下肢全体が硬く突っ張ったようになり、上肢は肘で曲がったまま動かせなくなって、
手は硬く握りしめたような形となります。
こうした上下肢の状態は、脳出血や脳梗塞で脳から手足への神経が断たれ、
正常な動かし方ができなくなり、
さらに筋肉の緊張をコントロールする神経の働きも失われ、
筋肉が強い緊張状態に置かれることによって生じます。
このような方々にパワーリハビリを行うと、
筋肉の緊張が弱まり、正常な状態に近くなって、
歩行・体の動き・手の動きが徐々に良くなってくるのです。
なぜ、このような効果が生じるのでしょうか。
効果のメカニズムをご説明する前に、
脳卒中の半身マヒに対するパワーリハビリの原則をお話しします。
それは「マヒ側の手足も、(マヒしているからこそ)きちんとマシントレーニングを
行うべきである」ということです。
脳卒中のご利用者さまは、手が硬く拘縮し、
トレーニングマシンのグリップ(握り)がつかめない方もいらっしゃいます。
このような方には、ストレッチをして、指を開かせて握りをつかんでいただき、
握り方が不安定な場合はベルトで固定します。
また、マヒした足が所定の位置に置けない場合は、ベルクロなどで支えたり、
両方の下肢をベルトで固定して、正しいポジションを保つようにします。
そして、実際にマシンを動かす時、マヒした手足を動かせる範囲は小さいので、
本人が動かせる範囲は本人に、それを超える範囲はスタッフが介助して動かします。
こうして、可能な限りマヒのない側と同じ範囲の運動を行うことが、
改善効果を生むためにとても大切なのです。
例えば肘を曲げる際、肘を曲げる筋肉(屈筋=“力こぶ”の部分)が収縮します。
この時、屈筋には必要な張力(緊張)が生じています。
しかし、屈筋が緊張・収縮するだけでは、肘を曲げることはできません。
反対の作用を持つ伸筋(肘を伸ばす筋肉)が緩まなければならないのです。
つまり、屈筋の緊張と伸筋の緩み(緊張の低下)が、同時に起こるわけです。
この2つの作用は脊髄で行われ、
1つの筋の活動は反対の筋の活動を抑制するという意味で“相反抑制”と呼ばれています。
脳卒中により、大脳の運動中枢と手足を結ぶ神経回路が損傷されると、
前述しましたように多くの方は手足の筋肉の緊張が強くなり、
手を含む上肢は屈曲位に、下肢は突っ張ったような伸展位になります。
肘がいつも曲がっているということは、屈筋の緊張がそれだけ強いことを示していますが、
同時に反対側の伸筋への抑制(相反抑制)も強いことを物語っています。
こうして肘はどんどん曲がって、
やがて伸ばそうにも関節自体が拘縮状態になっていくのです。
そこで、パワーリハビリにより、動かせる範囲は本人が動かし、
それ以上は介助で動かしていくと、
伸ばす運動の時に屈筋への抑制が行われるようになっていきます。
つまり、パワーリハビリを重ねるにつれて、
屈筋と伸筋の相互作用が起こるようになって、
緊張を支配する神経のバランスが復活し、
これが筋肉の異常な緊張を正常化させていくため、
歩行・体の動き・手の動きが徐々に良くなっていくのです。
以上のようなことから、
『リハプライド』に通われている脳卒中の多くのご利用者さまは、
「車イスを使っていたが、今では必要なくなった」
「杖を使わなくてもよくなった」
「歩き方が安定して、転ばなくなった」
といった身体マヒに対する機能の改善を体感されているのです。