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リハプライド・コラム

介護保険制度の未来について、
財務省の見解を聞いてきました。

去る6月4日(土)・5日(日)に、
自立支援介護学会・パワーリハビリテーション研究会の合同学術大会がありました。
大会では、非常に興味深い発表が多数ありました。
基本的には、国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授が提唱し、
自立支援介護学会や全国老人福祉施設協議会、
日本ケアマネジメント学会等でも基本ケアとして重要視されている、

・適切な水分摂取(1,500cc以上)
・適切な栄養摂取(1,500kcal以上)
・適切な運動
・自然なお通じ

という4つの項目の実践と、その工夫によって、どういった改善効果が見られたか、
というような内容の発表でしたが、どれも劇的な改善事例ばかりで、
この理論の素晴らしさを、改めて学ぶ良い機会となりました。

また、当日は財務省主計局の主計官(厚生労働担当)もいらっしゃり、
日本の財政と社会保障費についての講演を聞かせていただきました。
膨れ上がり続ける社会保障費の抑制のためにも、
私たちが行っているような、しっかりとしたエビデンスのあるリハビリを行う、
自立支援型の介護サービスが生き残るよう、
介護給付の在り方を考えていきたい、という非常に心強いお言葉もいただきました。

学会には、例年、厚生労働省の介護・高齢者福祉の担当の方がいらっしゃるのですが、
今回は政府の予算を実際に握っていると言ってもいい、
財務省のトップである主計官の、厚生労働担当者のお話が聞けましたので、
ご紹介させていただきます。

身を切る改革のターゲットは“社会保障費”

①税収と歳出.png

上の図は、日本の収入と支出(税収と歳出)ですが、平成5年頃から、
ワニの口が開くように、収入より支出が大きく増えて来ています。
この支出の伸びは、下の図をご覧いただければ一目瞭然ですけど、
社会保障費用(年金・医療保険・介護等)の伸びによるものです。
これは驚くことに、公共事業や地方交付税は26年前とほとんど同じ水準なのです。
国の借金の大きな要因は、社会保障費の増大と、借金の利払いの増大にあると言えるようです。

②社会保障費用.png

そんな中、政府は2020年まで、つまりあと3年と少しで、
プライマリーバランスをゼロにするということです。
つまり「国債費」以外は、全て税収で賄えるようにバランスさせるということです。
そのためには、公共事業等においても身を切る改革が必要かもしれませんが、
その改革の最も大きなターゲットは社会保障費であるということを、
主計官はハッキリとおっしゃっていました。

“医療・介護保険の同時報酬改定”に全てが懸かっている

③経済財政再生計画.pngのサムネイル画像

すでに年金は制度改革により、保険料収入に合わせて給付金額を変える仕組みになったので、
今後、大きく伸びることはなくなっています。
ですから、財務省としては、問題は医療と介護にかかる社会保障に関わる支出を
いかに下げるかを考えているそうです。
しかも、2017年に予定されていた消費税の引き上げはなくなりましたから、
2020年のプライマリーバランスゼロの達成は、
ある意味では、2018年(平成30年)の医療・介護保険の同時報酬改定に
全てが懸かっていると言えるような状況になっているのだそうです。
このような背景の中、訪問介護では、2016年末までに、
軽度者への生活援助は打ち切られる方針や、
福祉用具貸与についても、軽度者への貸与が制限される方向の議論が進んでいます。

介護業界の課題は、数字が見えないこと

財務省主計官の方の言葉で印象的だったのは、以下になります。

「介護保険の給付は絞らざるを得ません。今後も更なる減額は避けられないと思います。
しかし、だからと言って、悪貨が良貨を駆逐することはあってはなりません。
つまり、一生懸命やっている事業所が潰れて、いい加減なことをしている事業所だけが
生き延びるような報酬改定だけはしてはいけないと考えています。
ただ、介護業界の課題は、数字が見えないことです。
医療の世界であれば、どの治療が無駄なのか、
患者の予後までしっかりとデータ化されているため、全体として数字で明らかです。
しかし介護業界では、どのサービスがどれだけ役に立っているのか、数値が見えません。
しかも、人によっては、要介護度の改善ばかりを望んでいるのでもなく、
場合によっては、とにかく無事に預かってくれるだけで良い、という方もいるかもしれません。
とても難しい問題だと考えています。
今回、自立支援学会に参加してみて、このように、ご利用者さまの改善に
真剣に取り組んでいる事業者の皆さまにお会いしたことは、大きな参考になりました」 

主計官は、このようにおっしゃっていました。

「一生懸命やっているところが、生き残れるようにしたい」

主計官の「一生懸命やっているところが生き残れるようにしたい」というのは、
2015年の改定のように、介護報酬を全体的に引き下げて、
その上で加算を付けるということを言っているように感じました。
ただ、何をもって「一生懸命、頑張っている」と評価すれば良いのか、
政府もまだ迷っているのだということも同時に感じました。

私たちは、ご利用者さまの改善を願わず、ただ預かってさえいてくれれば良い、
と考えているご家族がどれだけいるか疑問です。
本当は皆さんが、できることなら改善して欲しいと願っていると思います。
事業所評価加算のような、要介護度の改善の評価といった議論の中に、
次回改定の答えがあるような気がします。

(出典:『我が国の財政と社会保障』/財務省主計局/平成28年6月5日)

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