改善事例

50歳/男性・要介護4 脳血管疾患

「胃瘻(いろう)を外したい!杖なしで歩きたい!」?諦めない強い思いと熱意をもって?

●要介護の原因
脳梗塞(平成22年)、右被殻出血、左半身マヒ、高血圧、誤嚥性肺炎、構音障害(平成25年)


●この改善事例のポイント

  • ご利用者さまの「胃瘻を外したい!杖なしで歩きたい!」という強い思いで目標に向かって頑張る姿勢に、継続することの大切さを学んだ。
  • パワーリハビリテーションと歩行訓練により、1年後には杖なし歩行が可能となった。

●通所する前は・・・
平成22年に脳梗塞を発症し、平成25年2月には右被殻出血を起こしたことで、左半身マヒとなりました。1日中ほぼ自宅ベッドで過ごし、屋内も車イスで移動していました。また右被殻出血により、構音障害とともに嚥下障害が発生したため、胃瘻を造設しました。構音障害でコミュニケーションが取りづらくなったことから、うつ傾向となり、自宅に引きこもることも増えて、精神的にも不安定になりました。

●通所してから・・・
平成29年4月、ケアマネジャーさまの勧めで、当事業所への通所を開始しました。通所後、口腔体操により構音障害の改善が見られ、徐々にコミュニケーションが取れるようになりました。「口から食べたい」という強い思いが3カ月後の胃瘻抜去につながり、パワーリハビリテーション(以下、パワーリハビリ)と歩行訓練を熱心に行った結果、1年後には杖なし歩行が可能となりました。


●リハビリでの変化

平成29年4月7日 平成30年4月9日
Timed UP & GO 41.41秒(杖あり) 17.25秒(杖なし)
開眼片足立ち 8.25秒(杖あり) 60.0秒(杖なし)
握力 右:36.3? 左:測定不能 右:33.4? 左:5.5?
ファンクショナルリーチ 25.0cm 22.5?(両手で実施)
長座位体前屈 42.5cm 32.0?(両手で実施)
30秒間足踏み 21回 34回(手すりなし)
水分撰取量の変化 400ml 600ml
メンタル面の変化 感情や精神面での不安定さがあり、泣かれることもあった。 職員との会話が増え、コミュニケーションが活発になる。職員に腰痛などのアドバイスができるようになった。
身体状況の変化
生活状況の変化
平成29年1月1日に胃瘻を造設して、注入食となる。1日中、自宅ベットで過ごし、車イスで移動。 杖なし歩行が可能になった。 上着の着脱、1人での入浴が可能になった。食事が楽しくなった。


●食事内容の変化について

食事内容
通所開始当時
胃瘻時
朝食は、注入食。
昼・夕食は、ヨーグルトや刻み大根の煮物、一口大の玉子焼き、ごはん。とろみをつけてどろどろしたものを食べていた。
餅、納豆、チーズは禁忌。
通所開始後
胃瘻抜去後
飲み込むとき、舌を使って、食物を喉や食道へ送れるようになっていく。
現 在 禁忌とされていた納豆、餅(小さく切って)も食べることができるようになった。何でも食べることができている。


●考察
通所を開始した頃は、誰も寄せ付けない感じで、「自分のことは自分でしたい。触らないでほしい」という雰囲気でした。スタッフもマシントレーニング以外は声掛けができず、様子を見守っていました。構音障害のためコミュニケーションが取りづらくなったことで、感情や精神面での不安が大きかったと思われます。そこで、まずは口腔体操をじっくりと行ったところ、少しずつ構音障害に改善が見られるようになりました。そして、言語が明瞭になるにつれ、徐々にコミュニケーションが取れるようになり、表情も変化してきて、物事を前向きに考えられるようになりました。

杖歩行では、床を見ながら歩いていたので、進行方向を見て安定した歩行ができるようになることと、立ち座りの動作を安定させることを目的として、パワーリハビリに取り組みました。パワーリハビリの空き時間にも休まずに体を動かして、自主的に歩行訓練をされました。結果、通所開始から1年後、体力測定のほぼ全ての項目で向上が見られ、杖なし歩行が可能となり、上着の着脱や1人での入浴もできるようになりました。

通所開始当時の食事内容は、胃瘻のため制限が多く、「唯一の楽しみを奪われた気持ち」とおっしゃっていました。「胃瘻を外したい。口から食べたい」というご本人の思いが、3カ月後の胃瘻抜去につながり、"食べる力を持つと、体の機能の回復が早い"ということが目に見えて分かりました。ご本人も「口から物を食べ、話す、笑う、という喜びを取り戻せたため、人と会話をするのが楽しくなった」とおっしゃっています。

本事例を通して、ご利用者さまの「胃瘻を外したい!杖なしで歩行したい!」という強い思いで、目標に向かって頑張る姿勢に、継続することの大切さを学びました。また、日常動作でできることが増えていくと、それが自信にもつながり、身体状況の改善だけでなく精神状況の改善にも良い結果をもたらしたと考えます。 ご本人の「自分は1人ではない。いろいろな方が見守ってくれたことが有り難かった」とおっしゃられた言葉は、スタッフのモチベーション向上にもつながっています。

(レッツ倶楽部 朝来)